妊婦のおなかに生まれてくる子どもの靴が乗っている

1985年以前は妊娠中や産後は運動を控えて安静することが良しとされていましたが、現在では様々な研究や事例報告などから運動は推奨されています。

アメリカでは2002年に米国産科婦人科学会(ACOG)が低リスクの妊娠中の女性に対して「ほぼ毎日、1日30分程度の適切なエクササイズを行うことを推奨する」と公式に発表しています。

運動はしてもいいと言われても、どれくらいの強度やどんなトレーニングだったら問題がないのかなどわからないという方も多くいらっしゃると思います。

そこで今回は妊娠中や産後にトレーニングをする前に知っておいてほしいことをご紹介したいと思います。
まずはこの記事を読んで安全で効果的なトレーニングについて理解を深めていきましょう!

妊娠中にトレーニングを行う利点

妊婦がオンラインを利用してトレーニングをしている

妊娠中は担当医の指示に従いながらトレーニングをすることで、胎児への危険性を最小限に抑えながら健康や体力を増進させることができます。

妊婦が出産前に適切なトレーニングをした場合、次のような効果があります。

  • 心肺機能や筋肉の機能の発達
  • 産褥期の回復促進
  • 出産後の体重・体力・柔軟性の早期回復
  • 産後におけるお腹周りの引き締め
  • 産科診療の頻度の減少
  • 分娩時間の短縮と陣痛の軽減
  • 不必要な体重増加の軽減
  • 気分が安定し自信が持てるようになる
  • 生涯にわたって健康的な生活を意識することにつながる

これ以外にも妊娠中にトレーニングを行うことで、妊娠性高血圧妊娠糖尿病(妊娠中に初めて診断される糖尿病)などの疾患が発生を低減する可能性があります。

理由としては定期的なトレーニングを行うことで身体のみならず心にもよい影響を及ぼし、その結果、妊娠高血圧の危険性を低下させる働きがあるといわれています。

また血液中のブドウ糖を肝臓や筋肉に取り込む作用のあるインスリンの分泌やインスリンの効き目(インスリン感受性)を向上させ、血糖値を正常に保つためのブドウ糖の処理能力を高めるため妊娠糖尿病の発生を抑制する可能性があります。

さらにトレーニングをすると腰痛、骨盤底筋群の機能不全、妊娠による尿失禁、慢性的な筋や骨の疾患などを防ぐ効果が高まります。

以上のことから健康な妊婦は妊娠期間中にトレーニングを実施することが望ましいといえます。

用語解説
【産褥期(さんじょくき)】出産後に身体が妊娠前の状態にもどるまでの期間になります。一般的に6~8週間くらいと言われています。

トレーニングによる胎児への反応

ママのお腹の中にいる胎児

妊娠中に強度の高いトレーニングを実施していた母親からの新生児は体重が軽いことが先行研究によって明らかにされています。
その差は約300~350gで、新生児の皮下脂肪が少ないことが原因です。

このことから妊婦のトレーニングでは強度の低いものを実施したほうが安全といえます。

早産に関して米国産科婦人科学会は次のように声明を発表しています。
早産に対する他の危険因子がなく健康的な妊婦にとって、トレーニングが子宮活動のベースラインを高めたり、早産や流産の原因になる可能性はほとんどありません。

妊娠中におきる身体への適応

妊婦がお腹に手を当てながら胎児を思っている

医学やフィットネス関係の団体によって、妊婦における身体面の変化に対する指針が示されてます。

心臓や血管系の反応

ウォーキングなどの有酸素性運動の強度を設定するときにはボルグスケール(主観的運動強度)を用います。

妊娠中の強度としては一般的に12~14の間が適切といわれています(表1)。
これは妊婦が運動中に会話を続けることができる強度になります。

指標自覚度
6
7非常に楽である
8
9かなり楽である
10
11楽である
12
13ややきつい
14
15きつい
16
17かなりきつい
18
19非常にきつい
20
表1. ボルグスケール

妊娠3ヶ月を過ぎると子宮が大きくなるため仰向けになったときに心臓へ戻る血流(静脈還流)が抑えられます。
仰向けになると心臓から全身に送り出される血液の量(心拍出量)が減少するため、仰臥位低血圧症候群を起こす可能性が高くなります。

したがってベンチプレスやシットアップなど仰向けのトレーニングは3ヶ月以降は行わないようにしてください。

ベンチプレスのエクササイズを実施している男性
ベンチプレスは3か月以降は行わない
(画像をタップして動画をご覧ください)
シットアップのエクササイズを実施している男性
シットアップ は3か月以降は行わない
(画像をタップして動画をご覧ください)

呼吸器系への反応

妊娠中の女性は1分間に肺に出入りするガスの量(分時換気量)が約50%高くなり、安静時の酸素消費量も10~20%程度多くなります。
妊婦は有酸素性運動で利用できる酸素量が減少します。

さらに、胎児が大きくなるにつれて横隔膜の動きが妨げられため呼吸するのが大変になります(腹式呼吸が難しくなります)。

以上のことから極度の疲労をもたらすようなトレーニングにならないようにプログラムを調整する必要があります。

妊婦はトレーニングで力を発揮するときに息を止めないようにします。
息を止めると腹部と骨盤底に過剰な圧力がかかってしまうので注意してください。

トレーニングの一般的な指針として力を入れるときに息を吐くことが勧められています。

用語解説
【骨盤底】恥骨から尾骨の間にある筋肉・じん帯・皮下組織からなるプレートのことをいいます。
女性の場合、膀胱・子宮・直腸などの臓器を下から支えています。骨盤底は尿や便を排泄する機能も担っています。

力学的な反応

妊娠中が胎児や乳房が大きくなるため身体の重心が変化します。
重心の変化はバランスや身体をコントロールを難しくします。

トレーニングではバランスをとったり、急な方向転換などを伴った運動は注意する必要があります。
特に妊娠6か月目以降は転倒の危険性や腹部への衝撃があるようなトレーニングは控えたほうが安全です。

妊娠中はリラキシンという関節を緩めるホルモンが分泌されるので、トレーニング動作はゆっくり行い関節へのダメージがないようにします。
最近の研究によりエストロゲンやプロゲステロンなどのホルモンも相互作用して関節の緩みに影響していることがわかっています。

またスキューバダイビングは胎児が減圧症にかかるリスクがあるため避けてください。

代謝への反応

一般的に妊婦は代謝が亢進するのに伴い、1日当たり約300カロリーのエネルギーを消費します。

妊娠中はバランスのとれた栄養価の高い食品を十分に摂取することが大切です。

妊婦の食事に関する詳しい内容は国立健康・栄養研究所の「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針」をご覧ください。

母体の栄養状態が悪いと胎児に深刻な影響が出る可能性があるため注意が必要です。
できるだけ管理栄養士などの専門家にアドバイスをもらいながら、出産後も継続できる健康的な食習慣を身につけましょう。

体温調整の反応

母子手帳と体温計

妊娠初期の3ヶ月間はトレーニング実施中に体温上昇がよくみられます。
この期間にトレーニングをするときは、十分な水分補給や通気性の良い衣服、適切な温度や湿度での環境を整えて熱を放散しやすくする必要があります。

もしトレーニング中に体温が異常に上昇したり疲労がみられたときは、直ちに運動強度を下げてクールダウンを開始するようにしてください。
また激しい頭痛やめまいが起きた場合は、かかりつけの医療機関に連絡をとってください。

トレーニングの禁忌

絶対的禁忌

産科的または内科的な合併症をもたない妊婦は、継続的なトレーニングにより健康づくりや体力を向上させることができます。

しかしトレーニングが絶対的に禁忌となる場合があります。具体的には次の通りです。

  • 妊娠性高血圧(子癇前症:しかんぜんしょう)
  • 破水
  • 直近の妊娠時に早期分娩している
  • 妊娠12週間後の継続的な出血
  • 予定より早い子宮頸管の拡張(不全頸管)
  • 重大な心疾患や拘束性肺疾患
  • 早産の危険性のある多胎妊娠
  • 妊娠26週後においても胎盤が子宮頸管を覆っている

※米国産科婦人科学会2002より

相対的禁忌

次のものに該当する場合は、トレーニングを始める前にトレーニングをしてもよいか医師に確認してください。

  • 難治性の一型糖尿病てんかんなどの発作、高血圧、甲状腺機能亢進症
  • 極度の病的な肥満
  • 極度の低体重(BMI12以下)
  • 非常に非活動的な生活習慣の経験
  • 評価不能である母体の不整脈
  • 前回の妊娠での胎児の発育不全
  • 極度の貧血
  • 多量の喫煙習慣
  • 慢性気管支炎
  • 整形外科的な運動制限

※米国産科婦人科学会2002より

用語解説
【BMI】体重と身長から算出される肥満度を表す体格指数です。
計算式はBMI=体重kg÷(身長m)2になります。

トレーニングを中止して医療機関に相談

次の場合にはトレーニングの継続を中止し医療機関に相談する必要があります。

  • 膣からの血性帯下の徴候
  • 運動時発作的呼吸困難(労作時呼吸困難)
  • 頭痛あるいは原因不明のめまい
  • 胸痛
  • 筋力の衰え
  • ふくらはぎの痛みや腫れ
  • 早期陣痛
  • 胎動の減少
  • 羊水の流出

妊婦が安全にトレーニングをするための一般的なガイドライン

安全と書いてある木製のブロック

以下はトレーニングに対して禁忌のない健康な妊婦に適用されるガイドラインになります。

  • トレーニングを開始する前に医療機関に相談してください。
  • 会話が継続できる程度の強度でトレーニングを行ってください。
  • 運動量は1日15分程度から始め、可能なら徐々に30分まで増加させてください。
  • 運動頻度は少なくても週3回、ご自身の体調に応じながら可能なら毎日実施してください。
  • 筋トレ(レジスタンストレーニング)は12~15回はできる比較的軽めの重量を用いて行ってください。
  • 筋トレの部位としては胸・背中・体幹・臀部などの大きな筋肉を使用するエクササイズを行いましょう。
  • 疲労困憊に達するようなトレーニングはしないようにしてください。
  • 固定式自転車やウォーキングなどのリズミカルな運動は障害の危険性が少ないため妊娠中に適しています。
  • たとえ緩やかでも腹部へ衝撃が加わったり、身体のバランスを崩すようなスポーツや活動は避けてください。
  • 熱があるときはトレーニングをお休みしてください。
  • 出血、多量の帯下、あるいは顔や手の腫れが起きた場合は医療機関の診察を受けてください。
  • 妊娠3ヶ月以降は仰臥位(仰向け)の運動は避けてください。
  • いきみが入る、または不快を感じる位置までのストレッチングは避けてください。
  • 水を1日に2リットル(コップ約8杯)は飲んで、高温多湿の環境ではトレーニングをしないようにしてください。

出産後のトレーニング

赤ちゃんの手とママが手が触れあっている

妊娠による身体への影響は出産後も4~6週間程度は残ります。
合併症を伴わない妊娠と分娩での女性は一般的に出産後6週間経てば主治医から運動の許可が下ります。
しかし帝王切開の場合には、さらに数週間かかります。

出産後のトレーニングは多くのメリットがあり身体的以外に自分のための時間を持つなどの心理的な効果もあります。
妊娠前の体力レベルに戻るまでは徐々にトレーニングを再開するようにしてください。

出産後に体力レベルが戻り健康を目的にトレーニングされる方は「プロがおすすめ!健康になるための体力づくりと運動の方法を解説」の記事をご覧いただき参考にしてみてください。

妊娠中・産後のトレーニングはパーソナルトレーニングがおすすめ!

妊娠中・産後のトレーニング前に知っててほしいことについてご紹介してきましたが、「自分一人だけでは不安」「トレーニングのポイントや注意点はわかったけど実際にどうやるのかよくわからない」と思われる方はパーソナルトレーニングがおすすめです。

マンツーマン指導のパーソナルトレニングなら自分の体調レベルや妊娠期間に応じたトレーニングができるため安心です。

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妊娠中・産後の女性がトレーニング前に知っておくことのまとめ

  • 米国産科婦人科学会は健康な妊婦に対して「ほぼ毎日、1日30分程度の適切なエクササイズを行うことを推奨する」と公式に発表しています。
  • 担当医の指示に従いながらトレーニングをすることで、胎児への危険性を最小限に抑えながら健康や体力を増進させることができます。
  • 妊娠中の女性のトレーニングでは強度の低いものを実施したほうが安全です。
  • 妊娠中のトレーニングで適切な強度としては運動中に会話を続けることができる強度が推奨されています。
  • 仰向けのトレーニングは3ヶ月以降は行わないようにしてください。
  • 妊婦はトレーニングで力を発揮するときに息を止めないようにします。
  • 妊娠6か月目以降は転倒の危険性や腹部への衝撃があるようなトレーニングは控えたほうが安全です。
  • 妊娠中はバランスのとれた栄養価の高い食品を十分に摂取することが大切です。
  • トレーニングをするときは、十分な水分補給や通気性の良い衣服、適切な温度や湿度での環境で行ってください。
  • 出産後のトレーニングは身体的メリット以外にも自分のための時間を持つなどの心理的な効果もあります。
  • トレーニングの禁忌として絶対的禁忌、相対的禁忌があります。該当する場合は主治医の指示にしたがってください。

参考文献

1)Brad Schoenfeld. 妊娠中のレジスタンストレーニング:安全で効果的なプログラムデザイン. ストレングス&コンディショニングジャーナル. Volume19, Number2. 2012.

2)Jared W. Coburn, Moh H. Malek. NSCAパーソナルトレーナーのための基礎知識 第2版. 特定非営利活動法人NSCAジャパン. 2013.

3)Kate Mihevc Edwaeds. 出産後のランナーのための留意点. ストレングス&コンディショニングジャーナル. Volume27, Number6. 2020.

4)Katie M. Smith,Erica Ziel. 妊娠中のクライアントのトレーニング. ストレングス&コンディショニングジャーナル. Volume25, Number5. 2018.

5)Michele Dell Pruett, Jennifer L. Caputo. 産前産後の女性のためのエクササイズガイドライン. ストレングス&コンディショニングジャーナル. Volume19, Number5. 2012.

この記事を書いた人

パーソナルトレーナー齊藤登

トータルフィットネスサポート代表
齊藤 登

2004年に栃木県宇都宮市にて有限会社トータルフィットネスサポートを設立しパーソナルトレーニング、国民体育大会の帯同トレーナー、医療機関での運動指導、スポーツや医療系専門学校の講師、運動や健康づくりに関するセミナーの開催などを中心に活動している。

NSCA(全米ストレングス&コンディショニング協会)ジャパン北関東地域ディレクターとして、日本におけるストレングス&コンディショニングの普及およびスポーツと健康に携わる専門職の育成にも力を入れている。

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