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2017年1月28日に開催されたNSCA第5回国際カンファレンスにて口頭発表したときの抄録をご紹介します。

演題「身体重心を意識し体幹筋群により重心位置をコントロールしながら重心から動き始めることが、動体視力・全身反応時間・動的バランス・筋力・心理面に与える影響」

発表者:齊藤 登

目的

重心始動の実験をした背景

アスリートのパフォーマンス向上を目的としたトレーニングにおいて、主観的な身体重心を意識し、体幹筋群により重心位置をコントロールしながら重心から動き始める(以下、重心始動)身体の使い方をプログラムに取り入れてきた。

これは重心始動によって、パフォーマンス向上に関わる能力にプラスの影響を与えられるという考えからであるが、すべて経験的なものであり科学的検証がなされていなかった。

重心始動はスポーツパフォーマンスにどうのうな影響を与えるのか

そこで重心始動が、アスリートのパフォーマンスと関係がある動体視力・全身反応時間・動的バランス・筋力・心理面に対してどのような影響を与えるのかを明らかにすることにした。

方法

重心始動の実験に参加したアスリート
競技種目の分類

対象は、障がい者スポーツを含む陸上競技・水泳・武道・射的・パワースポーツ・球技・雪氷滑走競技・モータースポーツからなる19競技種目のアスリート19名(男性15名,女性4名,内障がい者2名,34.8±16.4歳)である。

同一被験者に対して重心始動を用いた群と重心始動を用いない群(以下、対照群)を設け、動体視力・全身反応時間・動的バランス・筋力・心理面の測定を実施した。

重心始動の動体視力の測定に対する実験の方法

動体視力の測定は、被験者の顔面に対して非接触の3連続突き動作(直接打撃を加えずに寸前で止める)を行い、5段階の主観的速度スケールを用いて評価した。

重心始動の全身反応時間の測定に対する実験の方法

全身反応時間の測定は、光刺激に対して股関節軽度屈曲位から素早くジャンプし、足底が地面から離れるまでの時間を計測した。時間についてはビデオカメラで測定を撮影し、コマ数(1秒/24コマ)により算出した。

重心始動の動的バランスの測定に対する実験の方法

動的バランスの測定は、自体重でフォワードランジを行い、踏み出し脚の足底全体が床に接地してから身体が沈み込んで動揺が収まるまでの時間を計測した。時間については全身反応時間と同様に、ビデオカメラを用いて算出した。

重心始動の筋力の測定に対する実験の方法

筋力の測定は、スメドレー式握力系を用いて実施した。

重心始動の心理面の測定に対する実験の方法
心理面を表す24の語句を選択するテスト

心理面の測定は、腹横筋または横隔膜を主とした体幹筋群の随意収縮により、腹腔の垂直径を変化させて身体の重量分布を操作し、3パターンの重心高(通常,高い,低い)にて歩行動作を実施した。歩行後に、予め用意した心理面を表す24の語句を選択(または感じたものを記述)してもらい心理面の変化をみた。

結果

重心始動の実験後にわかった動体視力の結果
動体視力測定の固体内比較のグラフ

動体視力は、5段階の主観的速度スケール(1:ゆっくり見えた,3:速く見えた,5:とても速く見えた)にて重心始動を用いた群(2.53±0.77)のほうが対照群(3.63±0.67)に比べ、突き動作がゆっくり見える結果が得られた(p<0.05)。

重心始動の実験後にわかった全身反応時間の結果
全身反応時間測定の固体内比較のグラフ

全身反応時間は、重心始動を用いた群(460±130ms)のほうが対照群(550±170ms)に比べ有意に短縮した(p<0.05)。

重心始動の実験後にわかった動的バランスの結果
動的バランス測定の固体内比較のグラフ

動的バランスは、重心始動を用いた群(右前脚620±290ms,左前脚610±190ms)のほうが対照群(右前脚780±320ms,左前脚1150±570ms)に比べ、安定するまでに要する時間が有意に短縮した(p<0.05)。

重心始動の実験後にわかった筋力の結果
筋力測定の固体内比較のグラフ

筋力は、重心始動を用いた群(右握力42.18±8.16kg,左握力41.39±7.64kg)のほうが対照群(右握力40.29±8.73kg,左握力38.81±6.79kg)に比べ有意に高値を示した(p<0.05)。

重心始動の実験後にわかった心理面の結果

心理面は、被験者全員が3パターンの重心高(通常,高い,低い)において異なる心理面を表す語句を選択(または記述)した。通常重心高では「平常心」、高い重心高では「足が地に着かない」、低い重心高では「足取りが重い」が最も多く選択された。

考察

測定の結果から、重心始動を用いることで動体視力・全身反応時間・動的バランス・筋力の能力が向上し、心理面を変化させる可能性が示唆された。要因として、重心始動により以下のことが起きたと考えられる。

重心始動の実験で動体視力の能力が向上する可能性があることがわかった

動体視力においては、身体重心を意識すると物を見る意識が弱まるため、周辺視となり視野が広くなることが影響したと考えられる。

重心始動の実験で全身反応の能力が向上する可能性があることがわかった

全身反応時間においては、重心から動き始めると体幹や股関節周辺の大筋群から活動するため近位遠位連鎖が起こり、より高い筋出力が発揮される。
ジャンプ動作の最初に起こる、逆方向への反動動作が減少する。重心の移動方向に対してより正確な逆方向への力が床面に加えられるため、反力を効率的に得られることなどが影響したと考えられる。

重心始動の実験で動的バランスが向上する可能性があることがわかった

動的バランスにおいては、体幹筋群により重心位置をコントロールすると動作中の重心動揺が抑えられる。
体幹筋群の働きで腰椎-骨盤が安定する。重心から動き始めると脳の制御機構がフィード・フォワードとなるため、動作がスムーズに実行されることなどが影響したと考えられる。

重心始動の実験で筋出力が向上する可能性があることがわかった

筋力においては、身体が安定すると姿勢保持に関わる筋群の活動が減少するため、握力が発揮しやすくなると考えられる。

重心始動の実験で心理面を変化させる可能性があることがわかった

心理面においては、重心高の違いにより足底圧感覚が変化するため、それらの感覚が心理面に影響を与えたと考えられる。

重心始動の実験でスポーツパフォーマンスが向上することがわかった

現場への応用

重心始動の実験でわかったことを現場に応用するやり方

アスリートのトレーニングに重心始動を取り入れることで、パフォーマンスが向上する可能性がある。
エクササイズを実施する際に、基本的なエクササイズテクニックに加えて重心始動を併用することで、トレーニングがよりスポーツに特異的なものとなり、パフォーマンスを向上させる効果が期待できる。

重心始動は身体重心を意識しながら動作を実施するため、導入するタイミングとしてはエクササイズテクニックを習得し、エクササイズ動作を意識しなくても実行できるようになる自動化の段階が望ましい。

重心始動の実験でわかったことを現場に応用していく

今後の課題として、現場でより有効に使える情報にするために、重心始動によるパフォーマンス向上のメカニズムを科学的に解明していく必要がある。

この記事を書いた人

パーソナルトレーナー齊藤登

トータルフィットネスサポート代表
齊藤 登

2004年に栃木県宇都宮市にて有限会社トータルフィットネスサポートを設立しパーソナルトレーニング、国民体育大会の帯同トレーナー、医療機関での運動指導、スポーツや医療系専門学校の講師、運動や健康づくりに関するセミナーの開催などを中心に活動している。

NSCA(全米ストレングス&コンディショニング協会)ジャパン北関東地域ディレクターとして、日本におけるストレングス&コンディショニングの普及およびスポーツと健康に携わる専門職の育成にも力を入れている。

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